六時過ぎ、磯村医師が現れ、君の負荷心電図に現れた明らかなSTの降下は、貧血だけでは説明がつかない。心臓に虚血性徴候があるかどうかを調べる必要があり、心エコーはそのための検査であるという説明であった。
昨日に引き続き、かねてから頭に描いていた書斎兼寝室の模様を図に示しながら、君は再度、日出夫に完成を依頼する傍ら、三人からは勇気づけの言葉をもらい、その夜、家族一同の安泰を願う気持ちをしっかり抱きしめながら眠りについた。
三月二十四日
体重測定は毎朝起きて一番に測ることを義務付けられている。54・8kg。55kgを切った。痩せたなーと君はちょっとしょげた。
七時過ぎ、医局員数名を従えた白川医師の回診があった。昨年、菩提寺住職の奥方の結腸癌を手術された下部消化器外科部長である。背が高くがっしりしたタイプで、笑顔で名札を指さしながら自己紹介があった。
君は初見の挨拶に、住職の知己であることを加える。「ああ、あのご住職のお知り合いでしたか……。私も曹洞宗なんですよ……」
医師・患者間のやり取りに、なんとなくそぐわない話柄のやりとりに戸惑ったのか、従う医師たちの視線は、せわしく白川医師と君との間を行き来した。
昼食前、リハビリテーション室に呼ばれる。
君は、術後の歩行訓練を自主的に行うより、今回はPT(理学療法士)に尻を叩かれながら行う方が、年齢からみて効果的かなと考え、PTの関与を申請していた。
【前回の記事を読む】闘病中の私を「沢山の人を助けたんだから」と励ます妻。だが私は地獄に落ちるだろう—産婦人科医だった頃、優生保護法のもと…
【イチオシ記事】ホテルの出口から見知らぬ女と一緒に出てくる夫を目撃してしまう。悔しさがこみ上げる。許せない。裏切られた。離婚しよう。