COVID19院内侵入防御対策のため、面会者の体温測定、マスク着用、手指の消毒はもちろんのこと、面会時間は数分と限られていたが、医師から手術の事前説明もあったので時間を許され、夕刻までやや緊張の気は漂いつつも、病室で君一家の団欒があった。
見送って窓外を見るとGホテルの前庭の二本の桜は、夜目に見ても明るく誇らしく満開であった。
「来年は一緒にお花見をしましょうね」
帰り際の美瑛子の言葉が、君の心の不安を優しくそっとふき取ってくれた。
三月二十三日
朝起きて、栄養輸液を繋ぐカテーテルが少し抜けているように感じたので、君は看護師に見てもらう。体表に出ているカテーテルの長さを、例のペーパー尺度で念入りに測っていた看護師の顔が真顔になった。
明らかに抜け出ている。「連絡します」と出て行って、ものの五分と経たないうちに担当医が現れた。夜直か早朝出勤か、その素早さに、見事な対応と感心する。いったん輸液中断、直ちにどこまで抜け出ているかを確かめるためX線撮影室に運ばれる。朝八時前、その手順の良さに感心が倍加する。
結局、正午近く担当医が現れ留置したカテーテルは役たたずで抜去され、通常の右手の体表静脈から留置針による点滴に代わる。多少君の右手が不自由になった。
午後、下肢のエコー(超音波検査)に呼ばれる。君は数年前からジンジンする下肢のしびれに悩まされていた。隠れ糖尿病の副症状かと諦めていたが、血栓の存在もありうると思っていたので、検査結果には関心があった。
後藤医師から結果は問題なしと告げられひと安心するが、エコー室に向かう途中、入院して初めて明らかに足元がふらついたこと、依然として期外収縮が治まらないことと、激しい口渇を覚えたのが気になった。
夕刻、美瑛子、日出夫、朝子が面会に訪れ、明日行われる心カテに関する循環器の磯村医師からの説明を待った。