電車の走る場所

原田の必死の言葉に、田端は首を横に振って言った。

「ここでおまえを見逃すと、一年後、吉村の事故の証拠を手に、おまえが俺を脅迫しに来るって、吉村の幽霊が言ってた」

「そんな、バカな」

「おまえは、俺と福井が吉村の大切にしていたものを線路に投げたところをスマホで撮っていたんだろ」

「いや、そんなことは……」

「そう言ったんだよ。吉村が!」

そこまで言うと田端は原田に向かって包丁を振りかざした。原田はその攻撃をかわし、とっさに自分のカバンから刃物を取り出した。刃物を構える姿を見て、田端は笑いながら言った。

「ほら見ろ、やっぱり俺を殺しに来たんじゃないか」

「いや、違うんだ、これは……とにかく落ち着いて……殺し合いなんてやめようよ!」

「うるさい! 言い訳をやめて、おまえのスマホをよこせ! 今ここでおまえと一緒にぶっ壊す!」

原田の言葉に聞く耳を持たない田端は、包丁を振り下ろす。原田は身をかわし、攻撃をよけながら、ここから逃げることを考えた。そんな彼の考えがわかるかのように、田端が言った。

「もし、ここで逃げても、今度は俺がおまえの部屋まで行くぞ! 俺は、殺されるなんてまっぴらだからな!」

田端の包丁が原田の革のカバンに傷をつけると、原田は反射的に持っていた刃物で田端の体を刺した。

「う……う……っ……」

小さな呻き声をあげる田端が目の前で崩れ落ちると、原田は我に返った。

「田端! おい、田端!」

ナイフが刺さった左の胸に手をやる田端に、原田は声をかける。そんな彼に田端は鬼の形相で持っていた包丁を振りかざした。その包丁を原田がカバンで押し返すと、今度はその包丁が田端の腹に刺さった。

そのまま動かなくなった田端を見て、原田の背筋に冷たいものが流れた。そして、田端の体から自分の刃物を抜き取りカバンにしまうと、脱兎のごとくその場から逃げ去っていた。

数時間後、原田は今まで来たこともない駅のホームのベンチに座っていた。自分のやったこと、遭遇したことが恐ろしくなり、自分のアパートから少しでも遠のいた方がいいに違いないというとっさの判断から、今まで乗ったことのない電車に乗り、降りたことのない駅で降りていたのだった。

そんな彼の手にはスマホが握られ、カバンを胸に抱えて放心していた。数分前に、原田は幽霊の吉村から自分に送られてきたメッセージを見たのだ。その内容は次のようなものだった。

『田端は福井に連絡をしている。だから今度は、福井がおまえを殺しに来る』