「真夏なのにね、これ熱っ!」 と言いながら、イチヘイは旨そうに食べている。横にストライプの入った濃紺のポロシャツに白っぽい綿パン、仕事だからという理由で黒の革靴を履いている。僕は初日からずっと、白かベージュのコットンシャツ、Tシャツ、綿パンと白い運動靴で通してきた。

イチヘイは豚汁を食べながら、

「サキコさんに嫌われてしまいました」

と言った。

「詳しい事情を知ってるの?」と僕は訊いてみた。

イチヘイは首を縦に動かして、

「おとといの晩にやられた。ダンナは毎晩八時に家を出る。サキコさんが帰宅したら、ダンナはいつも通り出勤前の食事中だった。彼女が朝早く作っておいたやつさ。彼女がトイレに入ろうとしたら、ダンナが『お茶』と言ったらしい」

「サキコさんは『ちょっと待って』と言って先にトイレを済ませた。そして『お茶くらい自分でいれてよ』と言ったら、いきなり殴られた」

「泣きながら一晩すごして、朝早く僕に電話してきた。『お岩さんみたいに腫れた』って」

「それで、目は無事なの?」と、僕はずっと心配していたことを尋ねる。

「でなきゃ、彼女ここにいないよ」と言って、イチヘイは焼き肉を口に放り込んだ。

「救急車を呼ぶよう指示して、彼女からの電話を待った。そして二時間後、病院のロビーで眼帯姿の彼女と遭遇したというわけ」

イチヘイはどんぶり飯をかき込んだ。