「おばさん、大丈夫かな。そんな難しいこと、どうすればいいんだろう?」

「いや、わたしはもう働くからいいって言っているんだけど、お母さんは自分が泣いていることやお金のことをわたしに話してしまったことを、とても後悔していて、それ以来何もそのことは話してくれないの。大丈夫だ、大丈夫だとばかり言って……」

そうか、それでカホはカホの店でなく、公園で話したいと言ったのかと僕は思った。

「ねぇ、河田君……タッキー、どうしたらいいと思う?」

「それは……僕には……弱ったね」

僕には分からないと言おうとしたのだが、そうしたらカホは何も話さなくなると思った。

「……ずるい言い方だけど、もう少しおばさんの考えを聞いたらどうかな?」

「えっ?」

「確かに大変だと思うけど、おばさん、何か考えがあるんじゃないの? 言わないから心配になるだけでさ。もうしばらくしたら、また聞いてみたら、どうかな?」

カホは黙って、僕の顔をみつめていた。空は暗くなりかけていて、車の通る音だけがしていた。何か確たる考えというわけではないが、今カホが将来をすぐ決めるのは早いと僕は思ったのだ。

「そう、考えてもいなかったわ。中学出て、そのまま働くかどうかだけ考えてたの。そうすればお母さん困らないと思った……」

「そんな大事なこと、勝手に決めるなよ」

僕は思わず強く言っていた。自分でも驚いて、しまったと思った。

「いや、そんな大事なこと……おばさんはカホに一番いい道を望んでいるはずだよ。少し困った顔見たぐらいで、勝手に学校行くのをやめたら、おばさん困るだろ、勝手に働き始めたら困るだろ」

勝手になんて、僕はまた強い言葉を使っていた。言いながらカホの顔から目が離せなくて困った。カホは黙っていた。黙って、上目遣いで僕の顔を見つめていた。

「いや、まっ、僕はそう思うんだけど……」

そう言って僕はまたカホから池の方に視線を変えた。視線を変えなくては、この時間に耐えられないと思った。

もう薄暗い公園の中で白い鶴がいるのかいないのか、何かの鳥が何羽か池にいた。しばらく僕もカホも何も話さずに、時間だけが流れていた。僕には止まったような時間だったが。

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