しばらくは単調で厳しいラッセルが続くため、明るく広い白萩川の雪原を眺めながら小休止でもしたいところであったが、鬼島は容赦なくズンズンと林道を進んでいった。川田は声をかけることも憚られ、鬼島に続いた。
前を行く鬼島の足元を見つめながら、黙々と歩いた。単調なラッセルの繰り返しを続け、時間を重ねれば、そのうちに取水口も見えてくるだろうと言い聞かせ、腿から腰程度の雪の深さに耐えた。
ひたすらに、鬼島と交代しながらラッセルで進んでいくと、やがて道幅が狭くなった。そして道が緩やかに左に湾曲したあとに、雪に埋もれた取水口のコンクリート堤防が遠望できるようになった。
取水口の堰堤から流れ出す水は、局所に集中してしっかりとした水流を形成するため、その水が集中する部分だけ雪が積もらず、白萩川の水が顔を出し清流を形成していた。清流のせせらぎの音に単調な時間が和み、さらに取水口の堤防までラッセルで進むと、雪崩の跡である「デブリ」が道を塞いでいた。
デブリは、ボーリング球から小型の冷蔵庫程度の大きさの雪塊が転がっており、ワカンでは歩きにくかった。雪崩が滑り落ちた斜面を見上げると、樹木がそぎ落とされ、山肌が土色を伴って露出していた。小規模であるにせよ、雪崩の跡を眺めるのはあまり気持ちの良いものではなかった。
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次回更新は1月1日(水)、8時の予定です。
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