第一章 初夏の弔問
「私もね、若い頃には山によく入ったものですから、一応のことはわかっているつもりではあるのですがね。しかしハイキングに毛が生えた程度の山登りしかやってなかったですから、登攀なんかは別世界でね。もう、冬の剱岳などは想像もつかないけど、そりゃあしんどいのでしょうねぇ」言葉は出ず、顎を縦に振って相槌を打つ。
「本当にねえ。想像もつかないから、だから透がどういうところに挑戦して、どういうところで死んだのか、何で死ななけりゃならなかったのか、皆目想像もつかない状態でね。本当にねぇ。まあ、本人が好きで行ったのだから、本望だったのだろうと思うけど。
しかしね、我々はそう思わんと救われんのでね、透は本望だった、本望だったって、言い聞かせているのですわ。本当にねえ、恥ずかしい話だけどね」
父親にそう言われて、思わず顔を伏せ手で目を覆う。
「大丈夫ですか?」
しばらくうつむいてから「大丈夫です」と言って茶を飲み込むと、幾分気分が和らぐ。
「そりゃあ、川田さんも大変な思いをされたのだからねぇ、無理もない。透と、同じように雪に埋まっていたのですもんね」