第一章 初夏の弔問

そろそろ地図上の赤い印に近づいたと見上げると、長倉と書かれた表札がある。

門の前まで進み、その奥に延びる階段の、その奥の玄関戸を見つめる。安っぽい焦げ茶のトタン戸にデコボコとつけられた紋様を眺め、その中央に設えてあるドアノブをまた、眺める。呼び鈴は門柱に設えてあるが手は伸びず、結局は顔を背け、所在なく辺りを見まわす。

視線の先には、軒を連ねる民家の合間から裏手の里山がある。里山は相変わらずほのかな緑が揺れ、陽光の白い照り返しが瞬いている。しばらく見つめ、そして思い立ち呼び鈴に手を伸ばす。階段の上にある戸の奥で、くぐもった呼び鈴の音が響く。

内側から人が寄る気配がし、ドアノブを揺する金属音がして戸が開く。反射的に一歩前に出て「川田です」と声を張る。半開きの戸に手をかけたままの初老の女性が会釈をし「どうぞ、開いていますので」と目を伏せつつ奥に引きこもるので、自分で門を開け、玄関に続く階段を上がる。

半開きのまま内側から押さえられた戸に手をかけると、女性は戸から手を離し、たたきの上のスリッパを揃え、視線を逸らしたまま上がるよう促す。女性の頭は大方白髪に覆われているが、かろうじて櫛が入っている。所在なさげな両手は、色褪せたエプロンに絡ませている。後手に玄関戸を閉めて進むと、女性は素早く背後に回り込んで錠をかける。

靴を脱ぎ、スリッパに足を通そうと視線を落とすと、廊下の奥から「これはどうも。よく来てくださいました」と、据わった声色が響く。川田は視線を上げ、スリッパを突っかけながら首をすくめるように、足を整える。