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どうなの? あれから大丈夫だったか? おお、そうか。ならいいんだけどさー。何か大変な事になってただろ、あれ。うん、うん、びっくりしちまったわ俺ー。あんなの初めて聞いたもんよ。あれはどしたの。え、怪我? 病院? 大怪我? 事故? マジかよ。それは、どうしてまた。交通事故とかか? わからない? 何でよ。

ええ? おう、そうかぁ。そうかぁ、それはそうかもなぁ。わかった。また見舞いに行くよ。そん時でも。でもまぁ、お大事にっつっといてよ。俺も電話してんだけど出ないのよね、あいつ。本当。本当、大丈夫なのかね。なぁ、あのさぁ、マジ、大丈夫なのか? 

 

どう夜が終わってどう朝が始まったのかわからないまま、月曜日が過ぎ、火曜日が訪れ、水曜日がやって来た。その間に僕は旧知の仲間の一人と連絡を取り、何の打開策も見つけられない会話をした。

僕たちと中学高校時代を共に過ごし、今では東京に就職した彼はあの放送を知っていたようだし、上辺は僕の言葉を信用しているようだが何か異質な物を感じ取っていると最後の念押しで理解する。

普通じゃない。

大丈夫じゃない。

 

頭の中で、お前の最後の言葉がリフレインした。

『一人になりたい』

言葉通り、あの後僕はお前を家まで送り届け、その後一切の連絡を取っていない。お前が自主的に働き掛けてくるまで、こちらからは何もしなかった。

五分置きにスマホを確認し、何度もお前の名前を呼び出しては最後の一押しで留まる。それを繰り返して今日まで来た。ポケットに入れたそれが振動したような気がしては何度も取り出し、気のせいだと落胆しすることの繰り返し。仕事に集中する脳味噌のウェイトが完全にそれらに占められ、僕の注意力は散漫になっていた。

午前十時。

オフィス内は僕を含めて数名が席に着き、各々の業務をこなしていた。本来はそれに十名程足されるのだが現在は皆出払っており、電話でアシスタントと連絡を取り合ったりしている。

僕は椅子に浅く腰掛け、背中を丸めながらパソコンに向こう側では、整列したパソコンの向こう側、冬の太陽から降り注ぐ日光が窓ガラス越しにフロアに差し込んでいる。

名前を呼ばれそちらを向くと、少し離れた席から一人の青年が顔を覗かせて左手を振っていた。最初何をしているんだと思ったが、それが僕に向けられているのだと悟ると軽く手を振り返し、それから手招きの形を作る。

彼は頭を下げつつ早歩きで僕の席にやってくると、「忙しい時にすみません、今お時間よろしいですか」と一言告げて本題に入る。彼は僕より後輩で、背が低く肩幅の広い男だった。

彼は午後からクライアントの所に行くらしく、その時持って行く資料を僕にチェックして欲しいのだと言う。僕は了承し、彼からそれを受け取ると目を通した。 

「価格の決定まだしてない?」

彼はそうなんです、とぎこちなく笑う。陽を恋しがるモグラみたいな男だと思った。資料を彼に返し、大丈夫だよ、頑張って、と一言加えると、有難うございますと受け取って踵を返し席に戻って行く。

 

【前回の記事を読む】殺してやる...背中でもさすってやろうとした途端、お前の体が跳ね、僕の手が振り払われる。隻眼が僕の目を貫き、僕に襲いかかり、確かにこう言った。

次回更新は1月1日(水)、20時の予定です。

 

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