京子の感情が急激に変化したことで、年甲斐もなく、私の方がドキドキしてきた。

「ソウナノ? アナタニ、シテアゲタ事ッテ、少ナインダッケ? 直グニ、思イ出セナイッテ、チョピリ、淋シイナア」

京子は安心しきった表情で、急にいたずらを仕掛けるように、最後に「ワッ」と大きな口パクを付け足した。私に騙された仕返しだった。

「思イ出セナクテ、機嫌ガ悪ク、ナルトカ? ソレッテ、ナイヨネ」

ここぞとばかりに追い打ちをかけて、からかってきた。

「慣れてくれば、自然にできるさ。何にしても、いいことなんだから」

「今日カラ、安心シテ、イイ?」

自分の急なウキウキ感が不発にならないために、安心を確実にするための疑問符を、私に投げてきた。

「うん。いいよ」

私は少し自信がなかったが胸をはった。

「何時、考エタノ?」

「少し前から。今も、頭の中で整理してた」

「ソウナンダ」

久しぶりに私自身の心が解放されたような、晴れやかな気分になった。

【前回の記事を読む】「私、生きていてもしょうがないかなぁ~」それは、ALSになった妻の、私に対する重い覚悟の問いかけだった

次回更新は12月25日(水)、21時の予定です。

 

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