ALS 

やはり、おむつ交換の時間表を意味していた。

二人の看護師で、丸太になった京子の身体を、右に上げ、左に上げて交互に転がして、おむつを抜き取る。一方の看護師が、京子の身体に直接手をかけて側臥位に支えて待つ。もう一方の看護師が局部の洗浄をして、濁水を吸いきった紙おむつを、相手の看護師に押し出して、もう一方の看護師がおむつをたぐり寄せて抜き取る。同じ手順で、新しいおむつに交換して作業が終了する。

如何に気遣っても、多少、上体が動き、ときに上半身が動いた刺激で喉元のカニューレがぐらつき、京子が激しくむせ込むことがある。それが喘息と見間違うかのように、急に息継ぎができなくなって、お腹の毛布が波打つことがあった。しかも、身体が動かされた後で、居心地のいい姿勢に補正されるまでに微調整の長い時間を要した。

私はその時の苦しい京子の気持ちが理解できるようになっていた。

ただ、それだけではない。看護師に対する手間を省くという、京子の優しい気持ちが込められていることも分かった。

「自分ガ頼ンダ。本当ダヨ」

今回は希望者のみだが、超吸収量のいいおむつに変更してもらって、十時と二十時の一日に二回だけで済むようになるという。京子は以前の私の怒りの記憶がトラウマとなって、懸命な説明をしていた。自分の気持ちを説明し終えると、暫く私を見ていた。

私の感情は高ぶっていなかったが、インターネットで見つけた怒りを鎮める方法を試してみようと思った。怒りのタイミングをずらすため、おむつとは無関係のことを考えた。

京子は黙って考えている私を見て、完全に諦めた表情になり、焦点を天井に合わせて目を閉じた。それは、私とのもめごとを、おだやかに収めるための間合いを計っている孤独な姿に見えた。「ごめんなさい。もう、いいでしょう」と言っているように思えた。私はそれを見て、一瞬にして辛い気持ちになった。