「妻を、亡くなる前に失いました。その数日後に家族、全てを失いました。もう私の人生は、終わりました。こんなことになるとは……」
そう言った後、佐山さんは足元を見つめたまま、黙ってしまいました。沈黙の時間の中で息を殺して、私は質問の機会を待っていました。気が付くと「すまん。すまない」と、誰にあやまっているのか、何度もつぶやいているのが聞こえました。私は質問することをためらってしまいました。
『二度も妻を失った?』
気になった私の質問を受ける前に佐山さんの名前が呼ばれ、診察室に入っていきました。それから彼の顔は見ていません。
京子の話に戻りますが、「今日ハ、何、食ベタノ?」と、何度となく私の手動式の五十音字表で同じ質問をしてきました。いつまで経ってもデザートが決まらないのです。少し苛立ちを含んだ声を出してしまいましたが、私は勘違いをしていました。
何が欲しいのか決めあぐねているのかと思い、五十音字表を一生懸命あやつり、京子の好物を探していたつもりでした。
そうこうしているうちに、やっと気付きました。私がまともに食べているのか気がかりで仕方がなかったのでしょう。主婦として自分の家族を今でも守りながら、そのことを私に悟られることなく、命を全うしようとしていたのです。
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次回更新は12月21日(土)、21時の予定です。
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