ALS

パソコンをベッドに引き寄せてから五分ほどして、京子の深い瞬きの合図がありました。パソコンを見ると漢字変換された立派な文章がそこにありました。

「今日、何、食べたの?」

五十音字表をかざしての手動で作る言語はひらがなばかりで、区切る所によっては意味不明の文章になることがあります。私達は口頭で会話する時、知らず知らずのうちに単語間で間合いを取って、強弱をつけて喋っているということです。鳥のさえずりに調子があるのに似ています。

パソコンを見て、久しぶりに京子が言葉を喋ったような小さな感動を覚えました。私の食事はどうでもいいから早く君のデザートを決めよう。やっと京子に食欲が出たことで、嬉しい気分になっていました。

食事はすでに胃瘻に代わっていますが、誤嚥時の対処の準備をすれば、口からも、お楽しみ程度の「アイスクリームかプリン」は食して良いとされています。

デザートだけとはいえ、気管切開の手術後に久々に経口食が許されているのです。病気の進行を考えると、許される期間はそう長くはないはずです。気管支の途中になりますが、カフ(バルーン)付きのカニューレで誤嚥防止をしており、まだカフの上に唾液や口から食したものが溜まったことはありません。カフの上はブルーラインと呼ばれる管から吸い取ります。