小学一年の冬、クリスマスの時季が近づいて来て、母から僕らは「今度のクリスマスプレゼントは何が良いか、考えておいてね」と言われる。
姉も兄ももらいたい物はそれぞれ。僕は、ちょっと前からクリスマスプレゼントのことを考えていて、それを単刀直入に「野球のユニフォームが欲しい。巨人のユニフォームが欲しい。お願いします」と母に言ってみた。
「ユニフォーム? どこで売っているのかしらね。考えておくわ」と母は言う。一度欲しいと思ったら、もう引くことはできない。欲しくて、欲しくてたまらなくなる。
「スポーツ店やデパートで売っているよ! 楽しみだよ!」
「良い子にしていないと買ってあげないからね。ところで、ジョニー、宿題やったの?」母が聞いてくる。
「今日は、宿題は何もないよ」
「それじゃあ、算数と国語のドリルをやっておきなさい!」
「うん、わかった」僕は素直に従って、いつもの倍ぐらい計算と国語のドリルをやった。
クリスマスの前の週の日曜日、僕は母と二人で新宿駅近くのデパートへ向かう。デパートはものすごい人で溢れていて歩くのも大変だ。この頃は子供の迷子もよくあり、館内放送ではしょっちゅう迷子の放送が流されていた。
僕は、迷子にならないように母にくっつき、野球用品売り場へ向かった。
そこには、果たして! 子供用の野球のユニフォームが数種類飾られている。僕は、黒とオレンジの線が入っている巨人のユニフォームが欲しかったけど、それは少し値段が高い。黒の線だけのものが値段的には安く、母はそれを勧めた。姉や兄のクリスマスプレゼントとのバランスからしても、黒とオレンジの線が入ったユニフォームを買ってもらうのは難しいと感じた。
そして、「このユニフォームが欲しい」と言って、黒の線だけが入ったユニフォームを母に買ってもらった。周りの友達には巨人と同じようなユニフォームを持っている者もいたけど、僕は黒の線の一昔前のユニフォームで満足。それを買ってもらえたことが嬉しくてたまらない。背番号は「1」にした。憧れの王貞治選手の番号だった。