店の看板よりも存在感のないその人は小柄でがっちりして、しかし奇妙な感じがした。ちゃんと仕立てのよさそうな上着を着ているのに、下半身は作業ズボンみたいなものを履き、膝まで届く黒い長靴を履いているのだ。いくらなんでも上下があまりにちぐはぐだ。
背は小さいといっても百六十五センチはあるだろう。でもあたしは百七十三センチなので、どうしても見下ろす感じになる。
男の人はあたしの頭から爪先、そしてまた頭へと遠慮なく視線を往復させて、「面接の子?」と馴れ馴れしく話しかけてきた。首を横に振る暇も与えず、「どの店?」とたたみかけてくる。ユニ2ですと答えた。とたんに男の両目に明かりが灯った。右手奥の方へ歩いていき、クラブ蝶の観音開きの扉から比べるとだいぶ見劣りする木製のドアを、拳で乱暴にたたく。
「マスター、マスター、モデルみたいな若い子が面接にきたよ」
ドアはすぐ開いた。現れたのは、長靴の男よりもっと小さい蝶ネクタイの銀髪の老人だ。「あれ、若旦那、もう来たの?」と言いながら視線はこっちに向いている。
「客にもう来たのはないだろう。六時四十五分からここにいるよ。開店時間を律儀に守ってあげてるんじゃないの。ほら、モデルさん、入って、入って」
男がドアを押さえたまま手招きするので、あたしは銀髪の老人に用向きを伝えることもせず誘われるまま店の中に入った。
縦に細長い小さな店だ。窓がない。冷房が効きすぎている。カウンターやボックス席にくつろいでいた五、六人のホステスさんたちが、形状記憶合金のようにいきなり背筋を伸ばし、あらぁ、と声を合わせた。皆いっせいに立ち上がる。小さな男を取り囲むようにして奥の席へ塊で移動していった。
あたしは銀髪の老人に「セリナさんを訪ねてきたんですが」と早口で伝えたが、マスターと呼ばれた老人は棚のウィスキィのボトルを手に取ると、こちらを振り向きもせずに「セリナ、お客さん」と奥へ声をかけた。