「あっ」
もうずいぶん前に届いていたお父さんからの手紙だった。遊びや勉強、人形劇の練習などやることがたくさんあって、後で読もうとランドセルの中に仕舞い込んでいたら、すっかり手紙の存在を忘れていたのだ。「先生さようなら、皆さんさようならぁ」
帰りの会が終わると、僕はだいちゃんが声をかけてきたことにも気付かずに教室を一番に飛び出した。廊下を走り、慌てて靴を履き替えて、そうして、空き地に向かって走った。お父さんからの手紙は読むのも、返事を書くのも、場所はあの空き地と僕は決めていたのだ。
朝方積もった雪がもう解けかけていて、所々に溜まった雪解け水にかまわず走る僕の靴は水浸しになっていた。帰ったらお母さんにすごい怒られるやつだけど、僕の頭の中は他のことでいっぱいだった。手紙には、どんなことが書いてあるんだろう。お父さんに返す手紙には、何から書けばいいだろう。
あれからまた学校ではいろんなことがあった。勉強も、遊びも、たくさんあったいろんなことを、何からお父さんに教えようかとあれこれ考えながら、夢中で僕は走った。
八班が、「なかよしリコーダー」の課題の歌を、一番に終わらせたこと、二組との陣取り合戦で、三組が勝ったこと、かけ算の小テストでずっと満点だったこと、だいちゃんが、掃除当番のリーダーに初めてなったこと、だいちゃんのお母さんからだいちゃんに連絡がきたこと、冬休みになったらお母さんに会えるんだと、だいちゃんが嬉しそうに話していたこと……。
空き地が見えてきた。
「あ」
僕は空き地の前で立ち止まった。
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