『君は直前に夫婦に順番を譲った。つまり、本来君らが死んでいるはずだった。運命は君を選んだ。だから君に決めたんだ』
「今聞いたことで、お前の正体は絞れるぞ。警察関係者か?それとも」
『愚問(ぐもん)だな、それは聞いたからだよ。そうさせた可愛い大学生にね。あの子は、いい子だった』
過去形で語られて仲山は戦慄(せんりつ)する。まさか、既に滝口は殺されているのか? と。
「お前、彼女に何をした?」
口調を強めて問いかけるが、『小人』は特にペースを崩さなかった。
『まあ問題はその子じゃない。君らの緊迫(きんぱく)した状況だろう? 今はまだ平気かもしれないが、じきに蓄積(ちくせき)された疲労、空腹、ストレスが君らの精神を蝕(むしば)んでいく。こんな夢の国からさっさと現実に帰りたいだろう?』
「当然帰りたい。帰してくれるんだろうな?」
『それは、これからの状況を楽しみに』
「時間がかかるような口振りだな。……最初の連絡が正午過ぎ、それから約一時間で次の連絡、十二台のゴンドラのうち、残りは十一台」
『ほう、わかっているのか』
「つまり猶予は残り十一時間だな。クリスマスイヴが終わる午前〇時がタイムリミットなんだろう」
『そこまで推察しているなら、これ以上は話せない。ここからは想像の段階だ』
「お前の目的は知らないが、乗客を解放してくれないか?」
単刀直入に仲山は話を切り出した。
「人質なら俺だけでいい。俺はここに残るから、娘だけでも」
『娘か。何歳だ?』
「九歳だ」
『可愛いさかりだ』
「そうだ。自分の命より大事だ」
『それにしては……いや』