何かを言いかけた『小人』は、その後口を閉じた。沈黙(ちんもく)の時間がもったいないと感じた仲山は、言葉を続ける。

「なあ、観覧車ジャックなんてうまくはいかない。地上ではお前を特定する算段をつけてる、必ず捕まるぞ」

『確かに。しかしそんなことがわかっていないとでも思っているのか? そもそも「うまくいく」とはどういう意味だ? 君なら何をもって成功とする?』

「……」

この問いかけに仲山は答えられなかった。正直、こんな世間に注目されるような事件を起こして、たとえば金が目的ということはまずないだろうと仲山も思っていたのだ。金が欲しいなら他にもっとやりようはある。現時点で仲山は、『小人』のやりたいことを全く予測できていなかった。

『仲山さん、自分の置かれている立場がわかっていないようだな。最初に言ったはずだ。家族への思いを伝えろと、つまり誰も生きてこの夢の国ドリームランドからは帰れない。このゴンドラはいずれ全て落ちる。聖夜に浮かぶのは、ゴンドラのない大きな円盤(えんばん)だよ』

「全員死ぬ? だったら俺は何を交渉するんだ?」

仲山がスピーカーに向けて話した。

『それだ、それが正しい質問だ。いいか、ドリームアイからの電波は全て遮断している。ゴンドラ内の通話機も使えなくした。しかし、唯一、君のゴンドラの緊急電話回線のみを開通させてある』

この言葉に、仲山は口を閉じて考え込む。それでは、他のゴンドラの乗客から警察に証言することはできないということだ。仲山だけが『小人』の存在を主張することになる。

そう考えて、自然と表情が渋くなる。仲山の経歴は、あまり人から信用されるものではないのだ。警察が自分の証言を信じてくれるだろうか、と悩み始めたちょうどその時、仲山の耳に『小人』からの言葉が鋭く突き刺さった。

『通報しろ』

「何?」

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