ラストシンフォニー(最後の交響曲)

近代では、ロシアの作曲家ショスタコーヴィッチが15曲作り、第十五番がそのままラストシンフォニーとなっている。中でも最も有名なのが、第五番ニ短調で、以前民放のテレビで放映していた『部長刑事』のテーマ音楽でもあり、指揮者の岩城宏之氏などは、この曲を聞いて指揮者を志したと言われている。

こうして見ると、交響曲というのは、前述の通り、その作曲家にとって、自分の作品の上では大変重要な位置を占めるものであるが、ハイドンやモーツァルト、それにショスタコーヴィッチなどは、他の作曲家に較べ余りにも多作だと言うことができる。大半の作曲家は、4曲~9曲前後が普通である。

楽聖ベートーヴェンについて言えば、生涯9曲完成し、そのラストシンフォニー第九番に従来の殻を破って、第四楽章に声楽を入れたのである。当時の音楽界にとって交響曲に合唱を入れるなどまさに画期的なできごとであった。

もともとベートーヴェンは、従来の慣習に囚われず独創的な作風を試みる人であった。ヴァイオリン協奏曲の冒頭にティンパニーを使うなど、往時としてはちょっと考えられないことをしたのである。しかし、それらが凡て大成功を収めるのである。

普通、過去にない新しいものを取り入れると、必ず評論家や聴衆でさえ反発するものだが、彼の場合は寧ろ逆で、それが新しいものとしてそのまま受け入れられたのである。従ってベートーヴェンは、古典派や浪漫派に属さない彼自身の独創的な音楽の世界を構築したのである。

ベートーヴェンの肖像画や彫刻を見ると、毛は逆毛立ち、眼は一点を凝視して、実に厳(いかめ)しい顔立ちに見える。