外のつき丸が見える卓に着くと、つき丸はちょこんと座ってこちらを見ていた。

つき丸に源五郎が目で待つように命じていると、小女(こおんな)が出て来たので昼飯を注文する。

半刻もしないうちに小女が、粟をまぜた赤米に、味噌汁、焼き魚、野菜の煮つけ、梅干しを盆に載せ持って来た。

それを空腹の腹にかき込みながら、

「少々早いが、今日はここで宿を探そう。河越城をよく見ておきたい」

「分かりましただ」という短いやりとりだけで食事を済ませ、二人分二十文を支払いめし屋を出て、旅籠を探しつつ城の周りを歩き始める。

斑(まだら)な曇り空の下、城に聳(そび)え立つ櫓を見上げそこから視線を下げながら城全体を見渡すと、本丸の南側にある曲輪を囲む水堀には、鳰(にお)が悠々と水面に波紋を生み出し、雲間から差し込んだ陽光が、その波紋に反射しきらきらと光っている。

城は「道灌がかり」という「連郭式縄張り」で、子城、中城、外城など独立した曲輪を重ね、周囲に高さ二間ほどの土塁を築き、曲輪の間には堀を巡らし飛橋(とびはし)と呼ばれる橋で連結している。

曲輪の入り口には土橋、引き橋、食い違い虎口や横矢がかりなどの仕掛けがあり、城の外からは確認出来ないが、各曲輪毎に侵入して来る敵を防ぐ事が出来る構造となっていた。

本丸に天守は存在せず五十尺の土塁上に五十一尺の三重の富士見櫓が建てられていて、士卒が定期的に上りそこから見渡している。

怪しまれないように城の周囲を見て廻りながら、偉大な曾祖父が築城した城を見分している途中旅籠を見つけた。

「ここに入ってみよう」

開け放たれた戸口からは、焼き魚のいい匂いが漂っている。

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