第二章 調査1、調査2、お手本は自衛隊

「何ですか、その『月下氷人』って? 字面だと月を下界から見上げながらオンザロックでも飲むみたいな意味ですか?」とまるで頓珍漢(とんちんかん)な解釈をしてみせた。

くすっと笑って、「月を見上げながらオンザロックとは粋だけど全く違う。『仲人(なこうど)』の事だよ。『仲人』は知っているだろ?」と須崎が言うと

「えっ、『仲人』って結婚式の時やその昔、結婚をお世話してくれたとかいう人の事ですか?」と幸村が質してきた。

「そう、その『仲人』だ! 私には娘が二人いたんだが、二人とももう嫁いでしまって、今は家内と二人暮らしだ。男の子が欲しかったんだがそれは叶わなかった。でもこうして君と酒を酌み交わしていると、私に息子がいたならこんな感じで酒を飲めたのかなって思えた。今日の君を見ていてちょっとだけ息子の様に思えてな。

そんな君だから敢えて言うんだが、君私の親友の三〇歳になる娘さんとお見合いをしてみる気はないか? ちょっとこのスマホの写真だけでも見てくれないか?」と言って須崎は以前里村が自慢そうに送ってきた、娘とのツーショット写真を幸村に見せた。

最初は迷惑そうにしていた幸村なのだが、里村の傍らで優しそうに微笑むモデル張りの美人にすっかり魅了され少し考えた後、「……お会いするくらいなら全く構いませんが……」とはやる気持ちを抑えながら言った。

すると須崎が「万が一、先方に断られても俺を恨まないと約束してくれるか?」とちょっともったいつけてみると

「勿論! 決して恨んだりしませんから、是非紹介して下さい」と老練な須崎に幸村は敢えなく本性を曝け出してしまった。

そこを確認して須崎が「君、俺のスマホを使って俺とのツーショット写真を撮れ。それをまず親友に送る。その写真をお嬢さんに見せて、お嬢さんが会う気があるかどうか判断してもらう」と言ってスマホでツーショット写真の撮影をした。

この後、須崎は里村の娘が専業主婦になりたがっている事、父親が現在自衛隊群馬地方協力本部次長で二等陸佐である事等須崎が知り得る情報を伝え、代わりに幸村が東大卒ではないが地方の旧帝大卒でキャリア入省組である事等を巧みに聞き出していた。