「こんにちは」

受付窓口で、パソコンの画面を覗いていた看護師の結城さんに声を掛けた。

「ああ、あずみちゃん!」

結城さんは色白の肌を少し赤らめて、嬉しそうにほほ笑んだ。結城という看護師は、あずみの病院バイトの指導係で、いつもお世話になっている。そんな事情からふたりのつながりは深く、あずみにとってはよき相談相手だった。

仕事終わりにファミレスで一緒に食事をしたことも何度かある。そんなときには仕事のことを話すが、プライベートのことも話題に出て今のあずみにとっては姉のような存在だ。

実際、あずみには九つ年の離れた姉がいたのだが、その姉はあずみが高校生のときに病気で亡くなった。姉と年の近い結城さんは、あずみの中で姉と一緒にいた頃のやりとりを思い出させる。

ああ、こんなやりとりがあったな……と思いながら結城さんと話しているうちに、姉を慕うような錯覚に陥る。あずみにとって、それはとても心地よい時間だった。

今は姉の夫である義理の兄と暮らしているあずみだが、その義理の兄とは違う同性だからこそのやりとりだった。

「制服を返しにきたので、ちょっとご挨拶に来ました」

あずみも忙しい中、長居しようとは思っていない。だが、少しだけでも眼科のみなさんに挨拶して帰りたい。

「ああ、そうね。もう少ししたら、診察のほうもひと段落すると思うわ」

結城さんはうなずいて、あずみに少し待つように言った。あずみは待合いスペースの椅子に座って待つことにした。

横長の椅子はそれぞれ同じ方向に配置してあり、その椅子の斜め上の壁際にはテレビ画面がある。テレビでは今、人気の料理研究家の料理番組をやっていた。

待たされている患者たちは、テレビの画面を見ているのか見ていないのか、無表情に等しい表情で座っている。すでに待たされすぎてイライラすることすら通り過ぎてしまったという感じだ。

病院の待合室って、案外、目の前に知っている人がいても気が付かないのかも……。

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