第二章 調査1、調査2、お手本は自衛隊

続けて「そんな訳でかみさんは、子ども二人を片付けてからは、愛犬家として俺より飼い犬のマルチーズにご執心だ」と今度は須崎がかみさんの事を愚痴ってみせた。

「何だ、お前のところは犬か? うちは猫だ。かみさんが三毛猫をそれこそ猫可愛がりしている」と里村の家では猫を飼っていると明かした。

こうして、二人は八時半過ぎまで酒を酌み交わした後、須崎は在来線に乗り、来る時と違って高崎駅から帰りは北陸新幹線はくたか五七六号高崎駅発二一時二〇分発で東京駅へと向かった。

新幹線に乗り込んだ須崎は、別れ際に切なそうな表情を浮かべて、「娘の縁談の件、宜しく頼む!」と言って手を握ってきた里村を思い出し、何とか力になってやらねばと思っていた。

須崎が前橋から東京へ戻って四日後、物見遊山顔であの人事担当課長の豊田が、須崎を訪ねてF刑務所へやって来た。

所長室で応対した須崎に向かって「先日はどうも。今日はお忙しい中、お時間を取って頂き恐縮です。それにしても刑務所の塀は圧巻ですね」とニコニコしながら言った。

それに対して冷めた表情で須崎は「そうですか。毎日見ていると何時もの風景の一部でしかありませんが……」とそっけなかった。

そんな豊田と、社会貢献活動の一環としての模範囚三人の受け入れ条件の細部について話を進めた。

それは刑務所が責任を持って三人を選抜する事を条件として、T自動車とグループ会社の軽自動車メーカー、同じく系列会社のトラックメーカーがそれぞれ一名ずつの計三名を、一年間の契約社員として受け入れるというものだ。

一年後に再任用するかどうかは会社側の自由で、再任しなかった場合は新たに模範囚から補充するとされていた。

須崎は示された条件を矯正局長に示して判断を仰ぐと回答し、書類を受け取った。この後、豊田の希望通りに刑務所の中を一時間半に亘って案内して回った。

帰り際、豊田は「いやー、須崎所長お陰で滅多な事では入れない刑務所の中を隈なく見せて頂くという貴重な体験をさせて頂きました。本日はありがとうございました」と挨拶して満足そうな表情を浮かべて帰っていった。