そんな僕に、両親は浪人する選択肢を与えてくれた。でも断った。沙耶伽の父親は、僕を簡単に手放さない。
贖罪(しょくざい)を果たさない僕がこの町から出てゆくことなど許すはずがない。高橋が亡くなったのも、贖罪の糧に思う。この町の呪縛は、塞の神であった高橋の命も簡単に摘んでしまう。
色が淡くなった生活に、気持ちが磨り減らされてゆく。あとどれくらい堪えれば罪は許されるのだろう。警察に行き、すべての罪を告白してしまおうか。
犯した罪の隠蔽は、癒されぬ病のように心身を蝕んだ。心が支えきらず、病院で睡眠薬を処方してもらった。
三
多くの時間を大学とアルバイトで費やし、延々と続く無味乾燥な日々を、僕はこの町で繰り返していた。
当時の名古屋は喫茶店文化が根づいていて、八事界隈にも百席を超える大型の喫茶店がいくつもあった。僕はそんなお店の一つでフロアチーフを任されていた。『ブルバール』という名前の店だ。
覇気のない僕を見かねて、バイト先の店長が毎晩のように飲みに誘ってくれた。店長といっても雇われ店長で、僕とさほど歳は変わらない。
店長の沖田さんは、東京で挫折を味わった人だった。役者希望で東京の劇団に所属していたが、夢半ばで自らの才能の限界を知った。
酔いつぶれると僕たちはお店のシャッターを勝手に開け、客席の椅子を並べて開店時間まで寝た。警備がしっかりしている今では、考えられないことが平然とできる時代だった。