長瀬 律

新人教育は僕の仕事だ。仕事の流れを教えなくてはいけない。沙耶伽は控え目ではあるが周りに気を配る笑顔を絶やさず、僕の言うことをメモに取りながら、積極的に仕事を覚えていった。

彼女の働きぶりを見ると芽衣おばさんを思い出す。顔も同じ瓜実顔(うりざねがお)で、大人になった沙耶伽はおばさん似の美人だった。僕の後ろをついて回っていた頃の面影は微塵もない。だが僕は面影を探す懐かしさより、怯えを伴った気まずさを覚えた。

沙耶伽の父親を殺したのは僕だ。

できるだけ顔を合わせなくて済むよう、二人が重ならないようにシフトを組んだ。

なぜ彼女はこの町に戻って来たのだろう。

彼女は何も語ろうとせず、僕からも訊ねることはしなかった。

沙耶伽目当てに立ち寄る男性客が増え、早朝の売上が跳ね上がった。

『スターウォーズ』の二作目が話題になった夏が終わり、暦は九月へと移り変わってゆく。

店の駐車場の一部に畳敷きのプレハブがあり、そこが休憩所兼ロッカールームになっていた。一つ置かれたスチール机に座り、僕は翌月のシフト作りに取り組んでいた。「律くん」

沙耶伽が僕に声を掛けた。

彼女が「律くん」と呼ぶのは再会して初めてのことだったと思う。

「お願いがあるんだけど」

「なに? シフトの希望?」

「違うの。律くんの大学を案内してほしいの」