長瀬 律
二
新人教育は僕の仕事だ。仕事の流れを教えなくてはいけない。沙耶伽は控え目ではあるが周りに気を配る笑顔を絶やさず、僕の言うことをメモに取りながら、積極的に仕事を覚えていった。
彼女の働きぶりを見ると芽衣おばさんを思い出す。顔も同じ瓜実顔(うりざねがお)で、大人になった沙耶伽はおばさん似の美人だった。僕の後ろをついて回っていた頃の面影は微塵もない。だが僕は面影を探す懐かしさより、怯えを伴った気まずさを覚えた。
沙耶伽の父親を殺したのは僕だ。
できるだけ顔を合わせなくて済むよう、二人が重ならないようにシフトを組んだ。
なぜ彼女はこの町に戻って来たのだろう。
彼女は何も語ろうとせず、僕からも訊ねることはしなかった。
沙耶伽目当てに立ち寄る男性客が増え、早朝の売上が跳ね上がった。
『スターウォーズ』の二作目が話題になった夏が終わり、暦は九月へと移り変わってゆく。
店の駐車場の一部に畳敷きのプレハブがあり、そこが休憩所兼ロッカールームになっていた。一つ置かれたスチール机に座り、僕は翌月のシフト作りに取り組んでいた。「律くん」
沙耶伽が僕に声を掛けた。
彼女が「律くん」と呼ぶのは再会して初めてのことだったと思う。
「お願いがあるんだけど」
「なに? シフトの希望?」
「違うの。律くんの大学を案内してほしいの」