ある意味、彼は、処置に困った善意のブリーダーからパートナーへ押し付けられた事になる訳だが、パートナーは、彼を、大層可愛がったのである。
引き取って一年が経った頃、彼は被毛が生え揃い、本来の美しさがいきなり顕現した。パートナーはその変身振りに、本当に驚いたそうだ。それこそ「ファッサー!」という勢いの毛並みになったのだ。
「血統書付きだからな!」
パートナーは自慢する。正確には、彼に血統書が交付されている訳ではないが、やはり血は争えない。
一般ルートなら「処分」されていたかもしれない子犬は、そうする事が出来なかったブリーダーが親戚に無理くり引き取らせた結果、私達の大切な「宝物」になったのである。
さて、パートナーに溺愛されて育った彼は、それは「ワガママな王子様」に成長していた。元来チワワな訳だから、子犬だった彼は掌に乗る程小さく頼りなく、生かしていく事が出来るのか不安でたまらなかったそうだ。
それで、パートナーは彼に「躾」というものを一切していなかった。彼に負荷をかける事が、怖くて出来なかったのだ。
まず、トイレ・トレーニングを全くしていなかった。「小」の方は、壁面らしきものと見れば、どこでだって、ピッと凛々しく片足を上げてしまう。
基本の「キ」が出来ていない室内犬と、どのように暮らしていたのか?と言うと、もう、この方法しかないと思う、と答えた。
ペットシートを、床に二十センチ程度垂らし、残り五十センチ程度を床面から立ち上げてセロハンテープで貼り付ける。これを室内全壁面に施していたのである。彼が「シャーッ」とやってしまう度に、その部分を貼り替えだ。結構大変である。
因みに、「大」の方は、大体が散歩中にもよおしてくるようで、室内での被害は少なかった事を、彼の名誉の為に付け加えておく(但し、皆無ではない。裸足で踏んでしまって、悲鳴を上げたこともある)。
次回更新は11月25日(月)、11時の予定です。