私は歌人でも文学者でもなく、和歌に関しては専門外の内科医である。和歌の素人のくせにそんな無謀で不遜なことをする、と笑われるかもしれないが、自分の心に最も響く歌を選ぶことは、私にでもできるにちがいないと思ったのだ。そして、その大変であろう作業が、とても魅力あるものに感じたのであった。
百人の人選は小倉百人一首を基本にした。その中で、実在するかどうか不明の歌人、ベスト百人には適切でないと思われる歌人、好きではない歌人など、十五名を除外した。
猿丸大夫、安倍仲麻呂、喜撰法師(きせんほうし)、蝉丸、陽成院、文屋康秀 (ふんやのやすひで)、文屋朝康、春道列樹、源等、儀同三司母 (ぎどうさんしのはは)、藤原公任、小式部内侍、藤原道雅、三条院、源兼昌などである。
これら十五人の代わりにまず、『万葉集』から額田王、志貴皇子(しきのみこ)、大伴旅人、山上憶良の四人を入れ、残りの十一人は三十六歌仙、中古三十六歌仙などを参考にして選んだ。
それらは、源順(みなもとのしたごう)、中務、徽子女王(きしじょおう)、源頼政、小侍従、鴨長明、藤原忠良、藤原秀能、藤原有家、俊成卿女、宮内卿である。
本文では、その歌人の一番の歌を選出し、幾つかの好きな歌も挙げ、人物像も分かりやすく解説した。このような大胆な試みは過去において例がないと思われる。
小倉百人一首の歌人の他にも魅力的な歌人がいることや、小倉百人一首とは異なる名歌があることを知っていただければ幸いである。
また、この本を読んで、「もし自分なら、別の歌人や別の歌を選びたい」と思う方がいらっしゃれば、望外の喜びである。