「行け、行け、行け」

マコトのお父さんが今にも死ぬかと思わせる叫び声をあげながら、応援しているのを見て、やっぱり息子が活躍するのは、うれしいんだろうなと思った。

「出るぞ、出るぞ」

部員たちがざわざわし始めた。見るとマコトが相手の後ろに手をやり、腰から相手を持ち上げようとしていた。

僕がユーに「あれって、プロレスのバックドロップじゃないのか」と言うのもつかの間、本当にマコトはバックドロップのように相手を持ち上げて投げ飛ばした。ただそのまま、後ろに投げるのではなく、少しひねりながら投げるのだ。

「裏投げっていうらしいぜ。マコトの得意技らしい」

ユーが教えてくれた。得意技が出るので、みんな、出るぞ、出るぞと言っていたようなのだ。でも僕には、やはりあれはバックドロップに違いない、マコトは小さいときからプロレス好きだったからなと思っていた。

技が決まり、場内に大きく

「一本」

という審判の声がした瞬間、大歓声になった。

マコトのお父さんは気が狂ったように何かわめいていたし、全員が立ち上がって、拍手して、叫んでいた。

もちろん僕とユーとカホも「すげぇ、やりやがった、マコト!」と言って、みんな大喜びだった。

みんなで柔道部の部員のいるところまで押し寄せて、「マコト、マコトー」と言いながらマコトに手を振った。

「オー、やったぜ」

マコトは僕たちを見つけて何度も何度も手を振ってくれた。近くではマコトのお父さんが泣いていた。

「マコトさん、すごい」

カホも顔を紅潮させてマコトに手を振っていた。はじめて見るマコトの柔道の試合が地区優勝の試合だなんて、かっこよすぎるなぁと僕は思っていた。同時にカホがマコトを見て喜んでいるのに、少し嫉妬してしまっている自分がいるのに驚いた。

「それでさぁ、相手がずるいんだ、肘のところまで厚くテーピングして、柔道着の袖がつかめないんだよ」

もんじゃ焼きを食べながら話すマコトの言う意味がいまいち分からなかったけれども、僕とユーとカホは、今日ばかりは黙ってマコトの話をうんうんと聞きながらもんじゃ焼きを食べていた。

「そうか、そうか、それでマコト、あの技、やっぱりバックドロップじゃないのか、アントニオ猪木のビデオを見て覚えたのか?」

僕はわざと笑いながらマコトに返したら「タッキー、おまえ、柔道わかってないなぁ」と軽く話をいなされて、またとうとうと試合の細々としたことを話していた。