俳句・短歌 短歌 故郷 2020.08.14 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【第4回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 目に見えぬ心に見える人絆 人の恋しい秋に成る哉 見えぬ目の心に映る友情の 人の恋しい秋に成る哉 紅葉のもみじとも呼ぶ楓の木 人の恋しい秋に成る哉
小説 『春のピエタ』 【第7回】 村田 歩 刑務所で、お袋と13年ぶりに対面…こんなに小さな女だったか―。あの頃、生活が苦しく、いつも歯を食いしばっていたお袋は… 俺たちは婆さんより早く呼ばれた。刑務官に案内されているとき、初めて親父が落ち着かない様子を見せた。首から下は先を行く刑務官に素直に従っているのに、首から上はまるで道を見失ったかのようにあたりをきょろきょろ見回している。勝手が違う、といった顔だ。俺は急に不安になった。悪い想像が浮かぶ。たとえばお袋は急病で、敷地内の医務室のベッドで身動きできなくなっているのではないか。だからいつもの面会室で会うこと…
小説 『浜椿の咲く町[人気連載ピックアップ]』 【第37回】 行久 彬 「自分はこうして歳を取り朽ちて行くのか…」――変化の無い毎日のなか一本の電話があり… 故郷を追われて大阪に来た。出て来た当初は生活を安定させることだけを考え、洒落た服を身に着けることも小粋なレストランで食事をすることも我慢した。尤も、それを許すだけの生活のゆとりもなかったが、職場とアパートの単調な往復を繰り返すだけだった。そしてあと二月ほどで二年近くが経とうとしていた。今日もスーパーマーケットを定時に引けた。黄色くなった御堂筋の銀杏を見ながら帰りのバスに揺られる。アパートに着くと…