俳句・短歌 短歌 故郷 2020.08.11 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【第3回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 うつむきに歩く我が身に枯れ葉落ち 人の恋しい秋に成る哉 目の前に揺れて止まるや赤蜻蛉 人の恋しい秋に成る哉 我が友のいつでも傍で暮らしたい 人の恋しい秋に成る哉
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『しあわせについて』 【新連載】 杉野 六左衛門 家族はみんな忙しくて、姉ちゃんは私に無関心。だから育ての親は、ばあちゃんだった。綺麗で優しくて、私は大好きだった。 「真由美(まゆみ)」朧(おぼろ)な光の中で母が呼んでいる。「真由美、真由美」母はいつまでも、何度も私を呼び続ける。「真由美」声が少し尖ってきた。声はするのに姿が見えない、母はどこにいるんだろう。「真由美、早く起きなさい、もう六時五十五分よ」五十五分? そんな馬鹿な! 慌てて起き上がると、枕元の目覚まし時計の長針は五十五分をさしていて、短針は限りなく七に近かった。「なんで早く起こしてくれないのよ」…