第2章 「独立自尊」
ワタナベ社長の念頭にあったのは日本の定年制?
ちなみに「年齢差別」も「定年制」も、米国のすべての州で禁止されているだけでなく、カナダ、オーストラリア、英国、EU諸国でも禁止されています。
「定年制」に限らず、日本の常識は、時として米国での非常識となります。
たとえば日本で就職したり転職したりする時は必ず履歴書を用意すると思いますが、そこには当然のように生年月日を書き、写真も添付するはずです。しかし、これらは米国では禁じられています。採用担当者が、応募者の年齢を知ってあらかじめ排除したり、写真を見て特定の人種を排除したりすることを防ぐためです。
採用担当者にそのつもりがなくとも、結果的に差別につながる要素を採り入れたと推定され、これが違法とされています。ビジネスの世界は利益共同体(ゲゼルシャフト)であり、収集した情報はすべてビジネスの目的で使われたと考えられるからです。応募用紙に住所を書く欄もありません。住んでいるところで人種が推定できるからです。特定の人種の人たちを排除しないためです。
面接で、「土曜日に働けますか?」と聞けば、土曜日に働けるかどうかを選別の一つの要素として使ったことで結果的に、土曜日にシナゴーグへ行き礼拝をするユダヤ人にとって「差別的な効果」(Disparate Impact)が生じたということに解釈されてしまいます。会社の側では、そのような悪しき効果を凌駕するBFOQやBusiness Necessity を立証しなければならなくなります。土、日の仕事が仕事の本質的な要素となるような職場以外で、このようなことを聞くことはできないでしょう。
これらは〝違法な差別〟を定めた公民権法第7編のごく基本的な運用です。米国で働こうとしている人ならば1度は聞いたことがあるでしょう。また、米国へ進出している企業ならば、マニュアルとしてまとめているかもしれません。米国はこのようにして多人種、多民族、多宗教の人々で国を成り立たせてきた、と言えるでしょう。