今や、医師や看護師までもが、その映像に見入っていた。何の温かみもの持たない無情なカメラに、悟の死が語れるはずもなかった。

そのアナウンサーは、さながらその舞台の指揮者か監督だった。その掛け声に操られるようにして、患者たちの白熱した議論が始まった。

『そんなこと、どうだっていい!』

亜希子はそう叫んで、患者たちを黙らせたかった。

事故の調査が進む中、そこに新たな展開が見られる度に、マスコミの報道も、世間の関心もコロコロとその様相を変えた。何が一番の問題なのか、その軸すらぶれ続ける有様だった。

当初は悟についての議論もあった。それが路面に残されたこのトラックのブレーキ痕の不自然さから、二百パーセント超えという信じられないほどの過積載が判明すると一転した。ドライバーへの無理難題がまかり通る物流会社への非難は止まず、背景にある労働者を無視した効率重視や人手不足など、様々な社会問題へと議論は拡散した。

世の中の闇を暴くことに活気づく世間は『若者も無理な運転をしていたのだろう』と一言で片づけるようになり、やがて悟の死を取り合わなくなった。

余りにも衝撃的すぎるその死の瞬間を放映したことが倫理的にどうなのか、放送事故ではないかとの意見も相次いだ。しかし、夕刻のニュースでお詫びとして視聴者にこのことが伝えられると、その後メディアは一切悟の死を語らなくなった。

亜希子の心の穴には重く冷たい何かが、亜希子を翻弄するように揺れていた。

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