スローモーション再生になった映像には、何かの解説が加えられていた。

亜希子の身体は主を放棄したのか、冴えすぎて制御不能となった頭部のみを残して崩れ落ちた。それはまるで、操り手を失った人形のようだった。

そのバイクには、亜希子がプレゼントしたステッカーが貼られていた。見知ったバイクに見知ったライダースーツが、亜希子の網膜を刺激していた。

そのトラックにバイク諸とも、大きく跳ね上げられたのは悟だった。

画面中央に転がり落ちるバイクの様子を、アナウンサーが伝えていた。荷台の大きな薔薇の花束がその深紅の花びらを画面いっぱいに舞い上げ、ハラハラと漂いながら落ちて行くのを亜希子は呆然と眺めていた。朝の忙しい時間帯ということもあり後続の車が後を絶たず、カメラの高さにまで巻き上げられる花びらもあった。

モノクロームの世界に舞い踊る深紅の花びらに、誰もが気を取られていた。その事故現場を映したその画面の片隅で繰り広げられていた惨劇に、亜希子は何故、気が付いてしまったのだろうか。

トラックに跳ね上げられたバイクは、画面中央に時を置かずに叩きつけられるようにして落ちた。病棟の患者たちは舞い散る花びらと、それとは不釣合いに歪にひしゃげたバイクにばかり、気を取られているようだった。

バイクの落下とは一呼吸おいて、画面左下の隅にまるで木偶人形のように打ち付けられた悟は、画面の片隅で後続の車に二度三度と蹴散らかされていた。ついにはその場外へと追いやられたのは、深紅の花びらの円舞に魅入られた者たちの魂に、その姿が響かなかったからかもしれない。