第1部 電力会社のコーポレート・ガバナンス
1.原子力発電と電気料金
1-5 公益事業株式会社の合理的経営判断は補償されるか
アメリカの判例において、ストランデッド・コストに関して、電力会社の料金決定における株主利益の取り扱いについて興味深いものがあるのでみてみよう。
(1)ジャージー中央電力電灯会社事件
(Jersey Central Power & Light Co. v. Federal Energy Reguratory Commission、810 F.2d1168〈1987年〉)
[事実の概要]
ジャージー中央電力電灯会社(申立人)は、連邦エネルギー規制委員会の行った公益事業の料金改定において、料率算定基礎から原子力発電の投資後に撤退したことに係る投資額等が排除され、そのヒヤリングの再開催の申立をしたがこれも拒絶された。そこでそのヒヤリングの再開催を求めている。
事案はやや複雑であるが、約15年ほど前にフォークド川計画として原子力発電所の建設が開始された。当時の連邦および州の当局者は8年から12年かかる原子力発電所に多額の投資をするように奨励していた。
電力需要が着実に増大すること、および国際的なカルテルのために原油の価格が上がり続けることが一致した予測であった。
規制を受ける公益事業会社は、その顧客の予測される需要に適合するのに必要な施設の建設をすることが法律上の義務であり、申立人会社がフォークド川へ投資することは賢明な(prudent)投資であったことも関係当事者間に異論はない。
ところが、電力の需要と供給の予測は、ともに間違いであることが判明した。需要は予想したようには伸びなかったし、原油の国際的なカルテルの崩壊によってかつてなかったほどにその価格が下落した。
さらに原子力発電の建設計画に対する長引く訴訟や政治的論争が、建設の大幅な遅延と費用の増大を結果させた。
このことから、当初は賢明な投資であったのに、いまや撤退することが必要となったのである。
申立人会社は、投資してきた3億9700万ドルを約15年にわたって償却することによって費用を回復することを求め、これについては連邦エネルギー規制委員会も同意している。
問題となっているのは、償却される費用に含まれなかった社債および優先株の経常的請求額をカバーするのに十分な収益を料金算定の基礎に算入すべきことである(いわば十分な利潤の確保を求めることである)。
申立人会社がさもなければ長期的な資金に対するアクセスを失うことおよび短期的な信用の不安定は、同社を深刻な財務上の困難に置くことになる、というのが主張の内容である。