「何が言いたい? 毒のある物言いをされる方だな、あなたは」
「ああ、育ちが悪いからな。生まれは慎ましい奴隷だが、カザルス様に育てられた」
咎めた言葉もそうやり返す。毒も通り越してここまで行くとなかなか痛快にも思えてくる。シルヴィア・ガブリエルは逆にバルタザールの顔をしげしげと眺め返した。
「そんな目で見つめるな、俺に気がある女みたいだぞ」
まったくこの調子でやられては敵わない。辛辣(しんらつ)さと心地よい軽妙さとを併せ持った掴み所のない男である。こんな相手は初めてだ。
「変な人だな、あなたは。私を挑発して何かを聞き出そうとでも?」
「そうだな、聞き出すことはたっぷりありそうだ。お前は何か気になる。隠し事の匂いがぷんぷんする。俺は鼻が利くからな」
油断のならない男だ。まさかあのイダという老医者が何か喋ったのか! 不安が彼の心を撃った。
「イダ様という方は随分以前からカザルス様の所にいらっしゃるのですか?」
「ああ、イダか、多分長いと思う。俺が子どもの頃にはもういたからな。だがその頃からもう今と変わらない爺だったぞ。いったいいくつなのか、あれは謎だ」
シルヴィア・ガブリエルはイダのことを尋ねてバルタザールの顔色の微かな変化でも見てやろうと思ったが、彼の表情に別段何の変化も現れなかった。
思いすごしか……。
ついこの間、シャルルに伴してこの道を通った時には、まだ色づいていた木々もすっかり葉を落とし、蹄鉄で踏みしめる落葉が乾いた音を立てた。深まりゆく秋の風が時折、身に冷たい。
「ところでお前、剣はどこで習った?」
「剣は持っているだけのようなものです」
「そんなこともあるまい」
バルタザールは何をご謙遜をと含んだ笑いを浮かべる。