四人で囲むダイニングテーブル、その父の向かい側、つまり俺の右側に母の席があるが、母は台所をある程度片付けてから来るので、席に着くのはいつもみんなが食べはじめてしばらくしてからとなる。その日の夕飯のおかずはエビフライとハンバーグにポテトサラダ、姉の好物のメニューが並んでいた。母がエプロンを外してようやく席に着いた。

「どうしておばちゃんにご飯あげないの?」

俺は、子ども用のスプーンでポテトサラダのニンジンを除ける手を止めず、母との間に立っている「おばちゃん」をちらちら見ながら母に言った。最初はキョトンとしていた母が急に目を見開き、鬼を見たような形相になった。

家族みんなで食事をするときも「おばちゃん」はいつも俺の横にいた。そして、一人だけお茶碗もお箸も準備されることがなく、いつもただじっと俺を見ているだけなのだ。そんなことを家族は誰も気にしていなかった。それまでも、どうして食べないのだろうと思ってはいたが、俺が『かわいそう』という感情を抱いたのは、来年から幼稚園に通うという年頃になったこのときが最初のような気がする。

横にいたシャツとステテコ姿の父は、何も聞こえなかったようにテレビの巨人-阪神戦を見ながら、かつお節と釜揚げシラスを乗せたホウレン草のお浸しを酒の肴にビールを飲んでいた。冷や奴や鰯のみりん干しなどは酒の肴として、晩酌する父にだけ供されるのだ。

父には俺の声が聞こえていなかったのだろうか。目を向けると、半分ほどになっていたコップのビールを一気に飲み干した。

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次回更新は11月8日(金)、22時の予定です。

 

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