そうエンキは国民に伝え、皆に準備を促した。最後フス王が皆に手を振り、国民は熱狂し、フス王の名を叫んで大歓声を上げた。その歓声の中、一人の巨漢な男だけは、フス王とエンキに向け強い眼光で睨んでいた。
エンキとフス王は演説が終わると、クジラの軍艦の船長室に引き揚げた。エンキは側近達を部屋から出し二人だけになると、フス王の顔を見ながら呟いていた。
「相変わらず、王は人気があるな……。でも最近、記憶の乗りが悪いから気を付けてくれよ……オウサマ」
フス王は、ただ黙って頷いているが、顔が歪みピクピクと頬やまぶたが動いていた。エンキは、フス王の顔に記憶術を施しながら続けて言った。
「ここまで来るのに大変だったんだ、分かるだろ? お前がしっかりやってくれないと、フス王は国民の人気者なんだからな。軍や国民は、フス王がいるから使えるのだから、これからも頼みますよ」
「彼は! 彼は、どうする気なんだ!? あのままでは病が悪化して死んでしまうぞ……」
フス王はエンキに言うと、エンキは誰に口を利いているんだと言わんばかりの形相で答えた。
「もう奴は居ない。とっくに太陽の国へ送った。だからもうお前しか居ないんだよ。お前も、人の心配なんてしていないで、へまして太陽の国へ送られないように頑張るんだな」
そう言うとエンキは部屋から出て行く。フス王は怒りが込み上げ拳を握りしめ歯を噛んだが、どうする事も出来ない自分に腹が立ち、目の前の鏡を殴る。自分の顔を映した鏡は蜘蛛の巣状にひびが入って割れていた。
【前回の記事を読む】「だから俺達は、君を捜したんだ。」牢屋に入れられて死にそうになっていた俺達は、ある男に助けられ、自由になったのだが…