「私は仮死で生まれたそうです。以来ずっとこの体に付き合ってまいりましたが、それほどに?」

「ああ、酷(ひど)いもんじゃ。お前を支えとるのは殆ど気力だけじゃ。いや、気というのは目に見えんが大きな力でな、だがよう今日まで生きてこられたと感心するわ。よほど良い治療でも施されたに違いないと思ってな、ここらの者でないことは確かじゃから、もしやあの噂は本当なのか……と思ったんじゃ」

なるほどそういうことか。とんだ勇み足を踏むところだったとシルヴィア・ガブリエルは黙(だんま)りを決め込んだ。

「儂は誰に告げ口するわけでもないから心配するな。さっきも言うたが、儂には神も悪魔もない。第一、噂通りに魔物が棲んどるなどとは思いもせんわ」

そう言われてもシルヴィア・ガブリエルは警戒心を解けなかった。志を果たすためには、まだまだ自分の出処を明かすわけにはいかない。

やっとシャルルやカザルスに近づけたばかりではないか、うっかりここでイダの言葉に乗せられて喋るのは危険極まりない。それどころかこれは自分に何かを吐かせようとする誘導なのかもしれない。彼は固く口を閉じていた。

その様子を見て、イダは顔がつくほどに身を寄せて、密かな声で囁いた。

「どうも警戒心が強いな。お前が何か目的があってここに来ておるなら、儂は決してその邪魔はせぬわ。儂はどこの国の者でもないからな。じゃが、お前のこの体には儂の助けが必要だぞ。何をしようとしているのか知らぬが、お前がどれだけ固い意志で頑張ろうとも、儂の助けがなくては、ここではお前のその体がもたぬぞ。どうだ、儂を味方につけておけ」

体がもたぬ……それはシルヴィア・ガブリエルにとって最も気がかりな問題であった。

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次回更新は11月2日(土)、18時の予定です。

 

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