シャーナイ。シャーナイ。シャーナイのう~~などと鼻歌交じりに、もう一回りして帰ろうかと、向きを変えて歩き出したのじゃ。

我輩は、働いていても低賃金で、五十歳でもあり、小汚い服装。白髪の坊主頭。近視と乱視だけでなく、老眼まで入って黒縁眼鏡。障がいがある両足。ファッション性のない黒いジャケット。お尻がテカテカのスエットパンツ。白がくすんできた半袖の肌着。真冬でも履いてるサンダル……。

どうみても我輩は、美しいおなごとは縁がないどころか、脈略がほとんどない事実を受け入れるしかないのか。

五十年間の密封された苦悩を忘れて、就職して歩き出し、理想の女性が現れた。身分の差……。何の魅力もない我輩。神を呪ってしもうた。

我輩は己の人生に嫌気がさし、涙目になりながら、もう一回りしていこうかと、舵を変えたのじゃ。

こんな人生! この程度の人生! 身も心も小汚く、女っ気がない人生。とにかくこのまま信濃川に飛び込んでやろうかとさえ思ったのじゃ。

またまた、あっちぶらぶら、こっちぶらぶら。疲労したため、先ほどのふらふらが、ぶらぶらに変貌してしまったのじゃ。帰りに坂本泉水の自宅でももう一回見て帰ろうかの。

戻ろうと方向転換すると、何やらサイレンがけたたましく鳴り出しておる。何の音じゃ?パトカーか消防車か救急車か。それ以外にサイレンが鳴るっちゅうのはなかったはずじゃ。

何やら事件が発生したっちゅうことじゃ。おっかないのう。こりゃ、近所の可能性が高くなってきたぞよ。

消防車のカンカン音が音量を増し、我輩等に切迫してきとるようじゃ。いや、さらにパトカーのサイレンまで接近し、我輩は、何やら、脅迫されておるような、心持ち不安と恐怖で、震えがきたようじゃ。

それでもクマ君は表情も変えずに、ちょこちょこと小走りなのは変わりがない。歩き方と違い、図太いようじゃのう。

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