シャルル・ダンブロワは早速試してみたくなった。夢で父が語ったことが、もし仮にシルヴィア・ガブリエルの出現を暗示するものであったなら、この相続問題について何か方策を示すのかもしれぬ。

突然現れた旅の者にこのような大事を打ち明けるなどとは、冷静に考えてみればとんでもない愚行ではあったが、シャルルにはあの夢の中で聞いた天使の名という妙な符合が気になって仕方がなかったのだ。

「そなたにちょっと尋ねてみたいことがある。が、よいか、これから聞くことを決して他言してはならぬぞ」

突然呼び出され、何やら深刻そうな事態にシルヴィア・ガブリエルは畏(かしこ)まった。

相手の様子も意に介せず、シャルルはまず今現在自分が抱えている問題とイヨロンドやギヨームのこと、これまでの経緯(いきさつ)などをかいつまんで話して聞かせた。その上で彼はシルヴィア・ガブリエルとの距離を縮め、声を潜(ひそ)めた。

「試しに聞く。そなた、この状況であればどう打開する?」

美しい眉根(まゆね)を心持ち寄せて、視線を自分の足元の数歩先に落としたまま、ただ黙って考え込んでいる彼の様子が困惑しているようにも見えた。

シャルルは、やはり夢のお告げなどあてにはならぬか、と試した自分を愚かしく思った。

「まあよいわ。昨日今日ここへ来たそなたにはわかるまい。聞いた私が悪かった」

そうは言ったものの、微かな期待を寄せていただけにシャルルは少なからず失望した。下がってよい、と合図をしたシャルルからこの若者を召し抱える気持ちも失せかけていた。

ところがシルヴィア・ガブリエルは下がる気配もなく、ゆっくりと目を上げると消沈した顔のシャルルに向かって口を開いた。

「もしもお館様が」

シャルルははっとなって顔を上げた。

「何だ!」

先ほどの期待がまた少し頭を持ち上げる。シルヴィア・ガブリエルは自信に満ちた視線を向けながら言葉を続けた。