第二章 イヨロンド
シャルルは、まだ二十歳になったばかりの頃、父に伴(とも)してプレノワールのカザルスの城を訪れたことがあった。
そこで初めて男前の洗練された領主と、当時まだ十四、五歳の素晴らしい美少年であったバルタザール・デバロックを見たのだが、見映えがこれほど良い者が二人立ち並ぶ姿にシャルルはとてつもなく圧倒されたことを今も忘れていない。
自分たち親子は、アンブロワの土地では領主とその息子として、多少なりともその品位と風格を自惚れていたのだが、この時ばかりは父と自分のどうしようもない田舎臭さ、野暮ったさを身が縮むほど思い知らされた。
以後、シャルルにとって優美な従者を傍らに従えたカザルス殿の姿が領主としての憧れとなって心に焼き付いていたのだ。
――あの若者を従者に召し抱えれば、私も少しは見映えが良かろうか?
そんな馬鹿馬鹿しいことを思ってみてシャルルは自嘲した。
だがな、あの者がシルヴィア・ガブリエルと名乗るのは不思議なことだ。ガブリエルとは天使の名ではないか! 昨晩のあの夢のことを思っていたところに、こうも都合よく天使の名を持つ者が現れてくるとは面妖なことよなあ。
あの夢の意味もよくわからぬが、これはただの偶然か?
父上が夢に現れて私に告げたのであれば、あの者こそが私を助けるものなのか?
ガブリエル、告知する天使か、いったい何を知らせに来た?
シャルルは腕を組み、何かの答えを求めるようにふうっと目線を宙に泳がせ、そして決心した。
「よし、決めた! 乗らねばこの舟も進むまい」