と言いますと、やっと少し安心したような顔が返ってきました。

「これからはあなたも言うことを聞かないと、この杖がびしりと飛ぶかもしれないからくれぐれも気をつけてね。でもこうして杖を突いているほうが私は少しはおとなしくっていいんじゃないの」

というとやっとよくわかってくれた様で、大きな目をパチッとゆっくり閉じて、そのあとに、いつものようにニタッと片頬に笑いが出ました。

(良かった。これなら大丈夫)

と私もホッとしました。その夜半、病院の付き添いをしている娘から、(容態の改善が見られないので二人とも病院に来るように)との電話が入りました。

駆けつけた病院では、夫は昼間と同じようにただうつらうつらとしているだけの様子でした。

見るともなしに夫の枕頭の正面を見ると、酸素の投与量が一○・〇になっているではありませんか。びっくりしてもう一度ゲージを見直しました。間違いではありません。確かに一○・〇です。

以前、このゲージを一、五から二・〇に上げる時、断腸の思いで大決断だと大騒ぎをしたことが昨日のことのように思い出されます。

それが今一○・〇とは・・・。しかも吸痰ビンが血液で真っ赤なのです。血液そのものを吸い上げているのではないかと見紛うほどでした。

【前回の記事を読む】「あんなホームレスみたいなお父さんの顔を見たのは、初めてです」取り乱すヘルパーさんにつられて、涙。

次回更新は10月29日(火)、11時の予定です。

 

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