筋萎縮性側索硬化症患者の介護記録――踏み切った在宅介護

「地味、地味、地味!」の のどかな山中病院

(八)お帰りなさい、ホームレス

夫はとみると、顔にはほんのりと朱がさし、洗った髪もキラリと光るほどにさっぱりとした、清々しい顔に仕上がっておりました。ホームレスの名付け親に是非見せたいと思いました。

こうして夫の初めての基幹病院以外でのレスパイト入院は、無事に終了となりました。その時が来ました。いろいろとお世話様になりました。

刻刻と、刻刻と

平成二十八年三月二十一日、夫はこのところ四、六時中うつらうつらと傾眠傾向にあり、時折薄目を開けるのですが、婿も娘も私もそばにいることを確認すると、またうつらうつらの世界に戻っていきます。

私の退院を待っていたかのように、旅立ちの時が近づいてきたのが素人のわれわれ家族にもはっきりと判るようになってきました。

枕頭に控え、少しの変化も見逃すまいと堅く心に決めているのですが、時間ばかりが虚しく通り過ぎていくようで、何もできない不甲斐無さ、悔しさを禁じ得ません。

この間看護師さんたちが代わる代わる来られ、それぞれに思い思いの声をかけてくださっているのですが、本人にどこまで聞こえているのかと思うと砂を噛む思いです。

病院側のご配慮により今晩は特別に娘一人を泊めていただけることになったのです。婿と私は、後ろ髪を引かれる思いで病院を後にしました。

婿は今までにもこういうことが何回もあったことなので、このところも乗り切れるのではないか。桜の便りもあちこちで聞かれるので、寒さを越え得た力で、保ち直せるのではないかと思うと言うのです。