両親の結婚

父が小さな子どもにもすぐ手をあげてしまう癖は、年を取ってからも変わらなかった。しかも、叩かれて解るような年齢にもなっていない可愛い盛りの小さな孫にも、父は容赦なく手をあげた。

私は二男の出産のため、まだ一歳数カ月の長男を連れて、しばらく実家に滞在していたことがある。この時に事件は起きた。

私が二男を出産して十八日目のことだった。四人で昼食のザルそばを食べるために、私と父、一歳七カ月の長男は、テーブルを囲んでそれぞれ椅子に座っていた。長男は幼児用の椅子に一人で座っていた。

母が大きなザルに入ったそばをテーブルの上にぽんと置いた。その直後、長男がザルの縁を持って何度か揺らしたと思うと、テーブルから床にザルごとそばを落としてしまった。

次の瞬間、父の平手が長男の頬を思い切り叩いていた。長男は痛さから激しく大泣きしたが、一瞬の出来事で、私は長男のすぐそばに座っていたのに父を制することもできなかった。

この時は、母が父に対して怒った。

「こんな小さい子に何するの!!」

「食べられへんやない!」と父。

「洗えばいいでしょ!」

母は立っていたこともあり、産後の私より先に泣きわめく長男を抱きしめて、あやしてくれた。後で母が私に言った。

「鼓膜が破れていることもあるから、よく見ておいて」

長男の鼓膜は無事だったが、手のひらが耳にかかっていたら、本当に鼓膜が破れていてもおかしくない強さだったと思う。この時、父は六十六歳だったが、高齢者とは思えないくらいの瞬発力だった。

長男は二男の同時期と比べても比較にならないほど、とてもやんちゃで、とにかく何をするかわからない子で、いつも目が離せなかったが、まだ訳のわからない一歳児のめちゃくちゃな行動は、父には我慢できないものがあったようだ。

当時の私の日記には、父が長男を叩いた後、数日間、父と冷戦状態となった様子が記されている。父は自分の部屋にこもり切りで、私たちと一緒に食事をせず、会話もなかった。長男と一緒に食べるのが嫌なのだろうとも記している。