社長の吉田が狼狽えながら社員に声をかける。深瀬は頷いた。
「わかりました。正式な情報提供をお願いするために、県警の然るべき部署から後ほど連絡させます。その時、改めて社員全員分のアリバイも聞かれることになると思います。それと、私が見る用のIDは今いただけたら助かるのですが」
「あ、できてます。こちらです。あと、houseというユーザー名の人はいませんでしたよ」
青年からIDとパスワードを書いた紙を渡され、深瀬は早速『じゅっとう通信』にログインする。社長は不安そうにその様子を見ながら、外出の支度を始めた。これから仕事があるらしい。
「刑事さん、なるべく早く犯人を捕まえてください。うちとしても、防犯グッズの買い出しやら設置やらの依頼が来て大忙しで」
「全力を尽くします。ところで」
深瀬は吉田とその場にいる二人の社員に向かって話しかける。
「これは警察全体ではなく、私個人の見解ですが、犯人は十燈荘内の住人です。皆さん、仕事で会った相手の中に不審人物がいましたら、情報提供をお願いします」
えっ、と三人の顔が同時に引き攣る。名刺を置いていきます、と差し出したそれを受け取る吉田の手は震えていた。
【前回の記事を読む】インターネット上で雑談ができる住民の場『じゅっとう通信』。「house」というIDの人物はいるだろうか?
次回更新は10月19日(土)、21時の予定です。