「これを、夏美さん自身は知っていましたか?」

「それはわかりません」

女性が答えるのを待って、社長がエンジニアの青年に話しかけた。

「困るよ。こういう悪口を放置してちゃ」

「といっても、この程度じゃうちの会社が横槍入れられないですよ。立場弱いんですから」

「まあ、そうだけどねえ」

彼らはあくまでも十燈荘の下働きであって、この地域を取り仕切る権限があるわけではないらしい。住民に大企業の重役やセレブなどもいて、色々見逃されているものがあるのだろうと深瀬は感じた。

「秋吉家は、自治会費を滞納していましたか?」

「いえ、そんなことは一度もありません。この滞納って書き込みは嘘ですよ」

「そうですか。『じゅっとう通信』への書き込みは匿名でできるようですが、これを書いた人間を特定できますか?」

「そりゃできますけどうちがプロバイダやってるんで。でも、それ個人情報を漏らすことになっちゃいますが」

「いや法律違反は困るよ」