「刑事さん、あの殺人事件の時にここの捜査をしたんですか。そうですよ。うちができたのは二〇〇九年です。十一年前ですね。十燈荘も店が随分減ってきて、うちもここの人達に色々頼まれて何でも屋みたいになってたんで、いっそのこと看板を変えようってことになりまして」
「それで、総合サービス会社としてこのビルを建てたわけですね」
ええ、と社長は力強く頷き、先程と同じ質問を繰り返した。
「刑事さん。今回の犯人は捕まりそうなんですか?」
「その前に、あなたは今回の事件をどこまでご存じなのでしょう」
深瀬の問いに、男は得意げに答えた。
「そりゃあ、だいたい知ってますよ。秋吉さんとこで殺人事件があって、子ども一人しか助からなかったって話でしょう。十燈荘では昔も殺人事件がありましたから、みんなパニックですよ」
「みんな、というと、やはりそれは『じゅっとう通信』で話が広まっているんですか?」
「そうです。この辺の人はあんまり出歩かないですからね」
社長は特に隠すこともないように自分の端末を見せてくる。
「こんな感じですよ」
スマートフォンで深瀬が確認した画面には、無責任とも言える噂話がいくつも並んでいる。犯人は秋吉家に恨みがある人物だとか、お金がなくて借金でもしてたんじゃないかとか、裏取りのできていない情報ばかりだ。
深瀬は眉間に皺を寄せて画面から顔を上げた。
「そもそもの話ですが、この『じゅっとう通信』というのは、どういうものですか?」