アイアムハウス

「夏美さんは新参でしたが、旦那さんの航季さんはこの十燈荘の出身なんです。だから、ここで土地を買う許可が自治会から下りたんですよ。十燈荘は、ここの出身者を大切にする文化があるんです。小さいお店だからって、バカにされるようなことはないですよ」

「そうでしたか。失礼しました。ただ、気になることが……」

「何ですか?」

「そんな閑静な別荘地で殺人事件が起きた。ましてや一家惨殺事件です。住民の皆さんもあなたも、とてもショックでしょう」

「ええ」

「それでもあなたは、事情聴取から帰ってすぐにお店を始めていらっしゃる」

「そうですね。だって、お店を開かなきゃ生きていけないじゃないですか。母の入院費もありますし。夏美さんのことはお気の毒ですし、春樹くんには助かってほしいですが、私にも生活があるんです」

「ごもっとも」

そう言った深瀬は、入り口の外にあるバイクに目をやった。店のロゴが入っている。他にも、店内には同じ模様の花瓶が並んでいて、それらは藤フラワーガーデンオリジナルの商品のようだった。

「確かに、殺人事件が起こっても、仕事はしなければなりませんね。私もそうですし」

「ふふ、刑事さんも冗談を言うんですね」

堀田は深瀬の話をジョークと受け取って、少し噴き出した。

「昔はどうでしたか?」

「昔って?」

「この十燈荘では過去にも痛ましい事件がありました。その時あなたは……」

「ああ、あのとき。私は二十五歳で、この店で母と働いていました。母も、店を閉めるわけにはいかないと言って……。恐いけれども仕事はありますからね」