「ええ。今日また殺人事件がありましたが……不思議なことに、かつての事件の後、それでも十燈荘の地価は落ちなかったと聞いています」

「被害者の方のご家族は、家を手放した方が多かったですね。その跡地は、今でも更地です。でも、人が減った分募集をかけたら、すぐに希望者で埋まりましたよ」

そうですか、と深瀬は窓の外に目をやりながら話を変えた。

「今や藤湖は世界遺産ですからね。その話も含めて、失礼ながら、私には薄気味悪い場所に思えますが……全員が何もなかったかのように多くの屍の上に胡座をかいているようで。私は、少し前からこの先のクリニックに通っているんですが、いつ来ても奇妙な町です」

「外の人だからそう思うんだと思います。ここに住んでみれば、きっと変わりますよ」

「でもまあ、住めるような資産家じゃないですからね。夏美さんは、ここに移住できたことを喜んでいましたか?」

「ええ、でも夏美さんより旦那さんの航季さんの方が、だいぶ張り切っていたようでしたよ。航季さんは東京で就職された後にご両親が亡くなって、家を売ってしまったそうですから。

でも、やっぱり藤湖の見えるこの町で子育てしたくなったんだと聞きました。藤市民なら誰でも憧れの町ですからね。あと、特に航季さんは、お子様に自然の中で育ってほしいと思っていたみたいです」

「そうなんですね。あなたは、夫の秋吉航季さんとも親交があったのですか」

「世間話をする程度ですが、でも」

ご自宅にお邪魔したこともあります、と堀田は答えた。

 

【前回の記事を読む】国内でも折り紙つきの高級住宅街となった「十燈荘」。セレブが増えて地元住民の花屋は肩身が狭い?

次回更新は10月15日(火)、21時の予定です。

 

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