「そうですか。あなたも、十六年前の殺人事件のとき、ここにいたんですね」

「……十燈荘妊婦連続殺人事件」

堀田は怯えるように両手をさすりながら頷いた。深瀬はあえて深呼吸をして続きを待つ。

「あのときは、女の人ばかり狙われてすごく怖かった。しかも妊婦さんですよ。ひどすぎます。あの、でも、今回とは犯人が違いますよね。だって、あのときの犯人、捕まってますよね?」

「正確には、被疑者死亡により書類送検。逮捕はできませんでした。若い青年でしたよ」

「詳しいですね。今朝の殺人事件があって、もう調べたんですか?」

その堀田の疑問に深瀬は軽く首を振る。

「隠していて申し訳ない。混乱させると思って言わなかったのですが、私は十六年前の捜査に加わっています。当時のこの店に話を聞きに来て、あなたや前の店長にも会っています。ですから、調べるまでもなかった」

「ええっ?」

堀田はあからさまに驚いた。

「あの時のこと、色々あってあまり覚えていないんです……でも、刑事さんみたいな人に会ったら、絶対忘れないと思うんですが」

それは深瀬の不審な外見についての遠回しの評価だった。背が高く、不健康な顔色と肌の色、目の下のクマ、縮れた髪。そこに黒いコートを着ているのだから、死神のような印象は一度見たら忘れ難いはずだと。

「当時は私も快活な青年でしてね。あなたがお若かったように」

「そ、そうですか」

堀田は深瀬の台詞を冗談だと受け取ったらしく曖昧に頷く。

「あの事件、もう十六年も前なんですね」